68才の決断。シン・オープン・ラボの開設

 2年以上続くパンデミックによる自粛生活で社会も個人もそれまで経験をしたことがない生活を送ってきました。私自身も自分の人生設計も大きく変更することになりました。

人生の大方針転換
 最初は、コロナウィルスに感染したら生命の危機が高い高齢者、疾患、喫煙の3つすべてに当てはまるため、毎日ドキドキの生活をしながら引退して身の回りの整理し「終活」しようと縮こまって生きていました。
 ところが、養老孟司さんの講演を聞いて考えがガラッと変わりました。「年取って人に迷惑かけないで生きていくことはできない。自分で死んだ後の始末ができないから。」なるほどとパッと前が開け、死への恐れや死後への恐れを気にせず前向きに生きていこうと言う気になりました。

68才の決断 
 「自分のやりたいことをやり、自由な発想のままに生きる。」ということを決意したら、急に世界が広がっていくのが分かりました。死にゆくには人に迷惑をかけざるを得ないならば、せめて残りの人生、金も名誉も地位も求めずに、人のためになることを精一杯しながら、楽しく笑顔に満ちあふれるようにしていこうと思いました。

化学反応を起こす場
 オープン・イノベーションが叫ばれて長い時が経っています。日本においてもオープン・ラボと称するものがいくつも存在しています。しかし、何も起きてきていないと感じています。それはどこに原因があるのかについて、長く探ってきました。私は共感と共創に間にある「化学反応という工程を省いている点にある」という仮説を立て、まずは、化学反応を起こす場が必要ではないかと考えました。

自分の経験を土台に
 どのように化学反応が起きる場を作るか。その答えは自分の人生の経験知にあることに気づきました。30数年間のシステム会社の経営者としての経験と東大GUTPでの研究というアカデミズムな世界の15年間の経験、さらにもっと長くプライベートで伝統文化芸術に関わる仲間たちの世界です。
リアルとヴァーチャル、デジタルとアナログ、テクノロジーとアートという対極の世界の壁を破って集めたら何か面白い事が起きるかもしれないという仮説を立ててみました。

理論知と経験知を掛け合わせる
 イノベーションの新手法に必要な「化学反応の場」とは、二つ目の仮説である自分の人生から導き出した経験による「掛け合わせた3つの世界」のことです。
 AI・ディープラーニング(DL)はコンピュータという計算機から出てくる「確からしさ」の単純な答えです。理論知を人間しか持ちえない経験知と掛け合わせて融合が出来たら人生も社会も豊かになるのではないかというのが三つ目の仮説です。

化学反応の場としてのシン・オープン・ラボ
 ビックデータを扱うことはAI・DLで出来たとしても、経験知をデータ化することや他の人に伝えることは至難の業でした。多くの人に経験してもらえる場とそこから起こる「化学反応」を試す場を開設しました。それをシン・オープン・ラボと名付けました。

3年間限定のオープンで失敗を恐れない場
 ビルの定借契約の都合で期間は3年間です。 3年間という時間的制約は何かやろうとするには短すぎます。短い時間に何かをしようとすれば多くの人の協力が必要となります。多くの人が協力し合えるようにするにはオープンな形にせざるを得ません。さらに短い時間では成果にまでたどり着けないでしょう。成果にまでたどり着けなれば成功も失敗もありません。だからこそ失敗も恐れる必要もないのです。3年間限定の場だからこそオープンで失敗を恐れない場であることが必然的に決められるのです。

ラボにギャラリー空を併設
 期間限定という制約条件を逆手に取って、さらに短い期間でのPOC(仮説検証)の場としてギャラリースペースを用意しました。スティーブ・ジョブズの「形にして見せないと分からない」からインスピレーションを得た、リモート、パワポのプレゼンだけでは伝えにくいリアルなものを展示して反響を確かめる場です。ギャラリーのスペースは何もない空間で、あるのは外の風景のみです。京都の庭園の借景の考え方を入れてみました。ギャラリーの名前は「空」。これもスティーブ・ジョブズの禅的な思想へのオマージュです。

集まる仲間たち
 期間限定の空間を確保でき、次は共感して協力者たる仲間を集めです。シン・オープン・ラボの所長は東大塚田学准教授が引き受けてくれました。GUTP(東京大学グリーンICTプロジェクト、主査東大江崎浩教授)の公認となりGUTPのワーキンググループの実験室としての機能も備わりました。アカデミズム、テクノロジー系以外のもう一つの柱であるカルチャー系には花柳達真氏が率いる東京藝術大学邦楽科の卒業生による日本舞踊集団「藝○座(ゲイマルザ)」とフォトジャーナリストの小平尚典氏がフェローとして参加してくれます。

新しい働き方のオフィス
 シン・オープン・ラボの隣にオープンなオフィスも新設して新しい働き方の実証実験を同時に行うことにしました。オフィスのデザインはWeWorkやWORK STYLINGを参考にさせてもらいました。その心は社員が増えた時に自社のオフィススペースを増やさず近所にあるシエアオフィスを利用することを念頭においたものです。これからどこにいても自分の気分で働く場所を選べた方がよいと考えています。
 また、従来の価値観からくる会社に出社していれば仕事しているという思い込みをぶち壊し、ABW(アクティビティベースワーキング)を基本として、ワーキングスペースのフリーアドレス制、集中、コミュニケーションが取りやすいオフィスと物理的だけでなく組織ルールの変革も同時に行うようにしたいと思っています。

68才の決断から生まれたシン・オープン・ラボを見に来て、共感されたら、ぜひ参加していただけると更にうれしいです。

中島 高英